睡眠障害・睡眠リズム障害

睡眠障害・睡眠リズム障害

睡眠障害には大きく分けて不眠症と過眠症がありますが、いずれも日常生活に何らかの支障をきたしたものが、疾患として治療の対象となります。

睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)に従って検討してみましょう。

Ⅰ.不眠症

1、2時間経つても眠れない(入眠困難)。寝付いても途中で2、3度目覚めてなかなか眠れない(中途覚醒)。早い時間に目が覚める(早朝覚醒)、あるいはなかなか目覚めない(覚醒遅延)。

このような症状が、1、2週間以上続いて、改善の兆しが見られないようなら、治療の必要があります。

 

治療はその方の不眠症病型にあった睡眠導入剤などの処方を慎重に選択しつつ、睡眠生活習慣の改善を目指した生活指導・睡眠指導を行います。食事療法を併用したり、ご希望に応じ本格的な睡眠改善のための認知行動療法を併用する場合もあります。 特に、熟睡感が得られないという主訴の場合、睡眠に対する構えの問題も伴うため、認知行動療法はじめ心理療法の有効性がさらに期待できます。

 

*詳しい不眠症分類: ・適応障害性不眠症(急性不眠症)

~ショックで眠れない

・精神生理性不眠症

~自律神経の過緊張などもここに入ります。

・逆説性不眠症

・特発性不眠症

・精神疾患による不眠症

~うつ病では、前駆期・回復期にも睡眠が不安定です

・不適切な睡眠衛生

~生活習慣の乱れです。

・小児期の行動性不眠症

・薬物または物質による不眠症

~カフェインやエネルギードリンクの飲み過ぎなど

・身体疾患による不眠症

~腎不全で尿毒症など多彩。

最近注目されている疾患にむずむず足症候群(RLS:restless_legs_syndrme)による不眠症があります。疑って診察しないと見逃している可能性がありますが、鉄欠乏の補正など投薬による著明な改善が期待できます。

・物質または既知の生理的病態によらない、特定不能な不眠症(非器質性不眠症、非器質性睡眠障害)

・特定不能な生理的(器質性)不眠症

~脳梗塞後の不眠症など

Ⅱ.睡眠関連呼吸障害

睡眠時無呼吸症候群(SleepApneaSyndrome:SAS)を中核とした、呼吸障害を伴う、あるいは原因とする症状群を指します。この場合、夜間無呼吸相を挟んだ激しいいびきと、日中の堪え難い眠気が特徴とされます。単なる眠気のみならず、夜間に脳の低酸素状態を繰り返すので、深刻な脳機能低下に繋がる場合もあり、自転車自動車の運転禁止はもちろんですが、脳を守る意味で早急な治療が必要です。

 

診断基準としては、『睡眠中に10秒以上の呼吸停止や呼吸の低下を30回以上、または1時間あたり平均5回以上繰り返す状態を指します』ですが、その前段階にある方でも、随伴症状としての頭痛や眠気の程度に応じて、投薬による治療を開始いたします。鼾そのものは目立たないケースも見られ注意が必要です。

原因は臥床位による静水圧の上昇で生じる喉咽頭・気道の浮腫ですから、その軽減を目的とした処方を行い、寝具の上半身挙上、肥満の解消に向けての生活指導を行います。かつてCO2ナルコーシス(ピックウィック症候群)として言われたような極端な肥満体の方ばかりではなく、しばしば中肉中背や痩せ型の方もおられますので、その点に注意が必要です。

 

このため、日中の眠気を主訴で来院された場合、まずは睡眠の量と質の障害として捉え、不眠症含む原因分類を進めます。また、呼吸抑制のない漢方含む特別な睡眠処方を開始。無呼吸症が疑われる方には、適宜浮腫改善薬を追加して、経過を見ていきます。診断確定した方には、さらに気道確保のためのマウスピースの作成、それでも問題が解決しないようなら、喉咽頭・副鼻腔レーザー治療に進みます。違和感から、継続性に問題あり、また他の不眠症の原因にもなりかねないために、当院では夜間持続陽圧呼吸装置(CPAP)の適用は最少限に留めています。

Ⅲ.中枢性過眠症

ナルコレプシーに代表されるようないくら寝ても日中眠気が襲ってくるとか、一日中眠っているとか、非常に長時間の睡眠覚醒リズムになっているとか、こうした過眠の時期が周期的に訪れるとかいった病状を指して、過眠症と言います。

ナルコレプシーの場合は、入眠時幻覚、出眠時幻覚、日中の睡眠発作、情動性脱力発作を見究めます。レム睡眠障害の中核群として、夜間の悪夢を認める場合も多いです。ある程度、遺伝性が認められ、特定の組織適合性抗原とのリンクが報告されていますが、辺縁群などではこの限りではありません。

治療は、漫然とした投薬に陥らぬよう、薬物療法だけでなく、睡眠指導、睡眠の認知行動療法の併用が寛容です。また、TMS(経頭がい的磁気刺激)が有効な場合があります。

よく似た状態として、心的外傷後の過眠症や周期性過眠など、心理社会的要因や、そう鬱病辺縁群による過眠もあり、その際は原因疾患に準じた治療を行います。

Ⅳ .概日リズム睡眠障害

脳内の松果体という器官が通常、脳内ホルモン・メラトニンの働きで、日照・光刺激に反応し生体リズムを調整していると考えられています。

しかし、いわゆる睡眠覚醒リズム障害の場合、体質やストレス、生活習慣などが原因となって、そのリズムが崩れています。

たいていは、入眠遅延、覚醒遅延により、睡眠相全体がずれていくことが多く、夜更かしが多い学生さんが余計に陽に当たらず、夜昼逆転したりします。

意欲はあるのに、学校に行けず、不登校の原因になることも多いようです。

 

治療は睡眠習慣の改善指導や、光線療法といって、午前中早い時間帯に日光に当たるようにしたり、明るい照明の前で読書など、生活に光を導入します。就寝時間には、部屋を暗くする工夫も重要です。

薬物療法としては、メラトニンそのものや、受容体刺激薬の投与が有効です。

 

尚、睡眠覚醒リズムが縮んで頻繁に寝起きを繰り返すとか、特に、心的外傷の回復期にしばしばリズムの極端な伸長がみられたりもします。このような場合は、それぞれ、原因に沿った個別の対応を必要としています。

 

また、単に日中の眠気ということであれば、食後の反応性低血糖も鑑別の必要があります。

Ⅴ.睡眠時随伴症

睡眠時には様々な随伴症状が出現することが知られています。

睡眠関連てんかんやミオクローヌス発作、悪夢や金縛り、睡眠時のパニック障害、睡眠時狭心症など様々です。

 

概して、てんかん発作は、夜間睡眠時にも多く見られるものですが、過活動性てんかんといって、夜間苦悶様に上半身を異様にばたつかせる発作型もあります。後で述べる夢中遊行(夢遊病)やレム睡眠行動障害とともに、家族に大層気味悪がられたり、そこから離婚に繋がったりすることもあるほどです。

ミオクローヌス発作は、日中急に一瞬びくっとしてお茶碗を落としたりする短時間の全般性てんかん発作ですが、これが夜間睡眠中に起こると、極端に睡眠を妨げたりします。

睡眠時持続性棘徐波(CSWS)といって、夜間に発作は目立たず脳波異常が出現する珍しい病態もあり、CSWSの治療選択については、アメリカてんかん学会(AES)でも意見が分かれるところですが、約8割の会員が「顕著な睡眠-増強てんかん様活動に対して治療を行うべき」と回答しています。

 

解離性同一性障害(多重パーソナリティ障害)の人格交代が比較的夜間に限局して出現する場合も稀に見られます。

 

悪夢や金縛り、睡眠時のパニック障害も、重要な睡眠随伴症状です。

 

治療は原疾患の治療に準じますが、てんかんでは新世代の抗てんかん薬はかなり有効な成果をあげますし、ミオクローヌスや悪夢の薬物療法も最近の進歩は目覚ましいものがあります。

これらと、認知行動療法や睡眠指導との併用が有効です。

Ⅵ.睡眠関連運動障害

睡眠中に過食して覚えてない(睡眠摂食障害)とか、いわゆる夢遊病(小児では著しい交感神経の過活動を伴って、酷い夜泣き・夜驚症)の病態を示すノンレム睡眠障害や、まるで起きてるような発声(寝言)や体動が見られるレム睡眠障害(レム睡眠行動障害)などがあります。

 

治療は睡眠の質をノンレム、レムのバランスの観点から見直す薬物療法の調整や生活指導、食事療法、サプリメントやアロマが有効な場合もあります。

特に、睡眠摂食障害の場合、一部の睡眠薬の過剰服用によるω受容体遮断効果が原因の場合が多く、薬剤の変更を必要としています。この場合、睡眠薬依存の是非の臨床的判断も求められます。

ちなみに、レム睡眠障害には一般的に、TMS治療が極めて有効です。

Ⅶ.孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題

本当に、何年も一睡もできないというような場合が、これにあたります。

質の良い睡眠が、ストレスの自動発散効果をもたらすことを考えると、重度不眠症による心身の健康被害が懸念される極端な病態です。

Ⅷ.その他の睡眠障害

ほかにも様々な問題が、知られています。

 

 

 

いずれにせよ、不眠症、睡眠障害・睡眠リズム障害は早くからの医療対応が肝要です。

あれ!?っと思ったら、すぐに当院にご相談ください。